札幌地方裁判所 昭和34年(む)14号 判決 1959年6月01日
被疑者 川口勝治
決 定
(被疑者氏名略)
右の者に対する逮捕および公務執行妨害被疑事件につき札幌地方検察庁検察官池浦泰雄のなした押収処分に対し右の者から準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件申立を棄却する。
理由
本件申立の趣旨は「右被疑者に対する眼鏡一個の押収処分の取消を求める。」というのであつて、その理由は「被疑者は、逮捕および公務執行妨害被疑事件につき、昭和三四年五月二六日被疑者所有の眼鏡一個を押収された。しかるに、被疑者は左眼視力は〇・二、右眼視力は〇・五でかつ乱視のため、眼鏡がないときは、日常活動、なかんずく学問研究活動は不能に近い、また、本件眼鏡は、証拠として価値のないものである。よつて右処分の取消を求めるため本件申立に及んだのである。」というのである。
そこで、本件申立の当否について考える。検察官から取り寄せた右被疑事件に関する捜査関係書類に基いてなして当裁判所の事実の取調の結果によると、札幌地方裁判所裁判官土屋重雄が昭和三四年五月二六日発した捜索差押許可状に基き、司法巡査葛西一が同日午後三時一五分札幌市北大通西一四丁目大通拘置支所において被疑者所有の本件眼鏡(ケース付)一箇を押収し、翌二七日被疑者は書類および証拠物とともに司法警察員から札幌地方検察庁検察官に送致されたことが認められる。しかして、被疑者は、身柄押送に当つた警察官および被疑者の取調に当つた検察官に対し、眼鏡は持つているが平素は使用していない旨述べていることが認められるので、被疑者は、本件眼鏡を使用できないからといつて、日常格別の不便を感じている事情が認められないのみならず、被疑者は、右警察官および検察官に対し自分は遠視であると述べていることが認められ、申立理由との間に明らかな矛盾があるから、被疑者の申立理由は直ちに信用することができない。また、前記捜査関係書類中に編綴の現場写真中に被疑者と目される人物が眼鏡を使用しているが、被疑者は逮捕以後、司法警察員および検察官の取調並びに当裁判所の勾留質問の際を通じ、終始犯罪事実のみならず、氏名等をも黙秘している関係から、被疑者の特定上、本件眼鏡を証拠とする価値がないとはいえず、したがつて、被疑者が本件眼鏡の押収によつて蒙る日常生活上の若干の不便はこれを甘受しなければならないのであるから、本件眼鏡の押収をもつて、直ちに不当であるということはできない。
よつて、本件申立は、その理由がないので、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項後段に則り主文のように決定する。
(裁判官 橋本享典)